縁があって夫婦となったけれど、実に様々な原因があって婚姻を解消することにした、というカップルはたくさんいます。
現代日本では、夫婦の3組に1組が離婚となる、というふうに言われているほど離婚率は高くなっています。
一緒に生活をしていた男女がその縁を切る時、問題となるのが共に築いた財産の行方でしょう。共働きの場合、自分の口座はそれぞれが管理して生活費の口座に同額振り込んでいる、という家庭も珍しくありません。
しかし口座を1つに統一して妻や夫が一人で管理している、という家庭もまだまだたくさんあります。
特に口座を共にして財産を一緒に築いている場合には、多くの場合で分与が問題となります。
しかしそれも、借金がなければ比較的スムーズに解決しているようです。
では、借金というマイナスの遺産がある場合には、一体どうなるのでしょうか。
離婚時の財産分与は
財産分与は婚姻期間中に二人で作ってきた財産を分ける作業のことで、その中身は給与・貯金・不動産・家電や家具・退職金などです。これをプラスの財産(積極財産)といい、借金のようなマイナスの財産(消極財産)と言います。
預貯金など名義人がはっきりとしているものはその人のものになると考える人もいますが、夫婦の収入からの貯金を片方の口座に入れている場合などに、それでは不公平になってしまいます。
そのため、離婚の財産分与では名義がどうであるかは関係なく、「その財産を作るにあたっての貢献度によって分ける」というのが原則とされています。
この貢献度は、単に収入の額だけでは決めません。専業主婦は収入がありませんが、妻が専業で家庭を支えてくれていたために夫は仕事に没頭出来た、というように考えるため、こうした貢献も評価して原則的に「夫婦で2分の1ずつにしてね」となっています。
借金も財産である
そして借金は財産を分けることに関係ないかといえば、そんなことはありません。というのは、配偶者が夫婦の共同生活のために負った借金を考慮しないことは不公平になるからです。
生活を成り立たせる上で負った借金も財産の内です。しかし同じ借金であっても対象となるものとならないものがありますので、不必要に揉めないためにもそれをしっかりと知っておく必要があります。
財産分与の「対象となる借金」
財産分与の対象となる借金はどのようなものかですが、これは“夫婦が一緒に生活するために負ったもの”となります。つまり、家族で使うために必要なので作った借金であれば、二人でわけっこしましょうね、ということになるのです。
具体的には、「不足した生活費を補うための借り入れ」です。これは子供の急な入院で費用がなくて借り入れをしたとか、大学の教育費のローンなどです。
夫や妻が仕事に使うために組んだ車のローンなども入りますし、家族で使う家、家族で使う車や冠婚葬祭のためのローンなども対象です。
◆財産分与の対象となる借金
- 生活費の不足分を補うために借り入れたした借金
- 家族で使う車のローン
- 家族で住むための家のローン
- 冠婚葬祭のローン
財産分与の「対象とならない借金」
財産分与の対象とならない借金は、夫婦や家族のためではなく、個人のためにした借り入れです。
例えば、「収入から考えて明らかに高い個人的な買い物のための借金」はNG対象です。個人の趣味や娯楽のための借金はアウト、と考えてください。
具体的には、夫の趣味がギターだったとして、そのためにいくつも高級なギターを買い替え、購入のために借金をしていたというような場合ですね。妻のエステやブランド物のバッグ購入費のための借金なども、当然除外となります。
他にもギャンブルのための借金も財産分与の対象とはなりませんし、結婚前に一人で作っていた借金や、配偶者の相続による借金も財産分与には関係ありません。
ここで難しいのが、例えば株やFXで取引き失敗をして借金を作ってしまった場合などです。基本的には一人の資産形成のためのものであると考えられ、分与の対象にはなりません。
しかし、これが夫婦二人の財産を形成するためであった、と認められた場合には考慮されることになります。
そして結婚前からあった借金に対してもその返済を夫婦の生活費から出していた場合には、それが夫婦の共有財産とは内容が無関係であったとしても財産分与の対象となるようです。
◆財産分与の対象とならない借金
- 収入から考えて明らかに高い個人的な買い物のための借金
- ギャンブルのための借金
財産より借金が多ければどうなる?
一般的な財産分与では、積極財産から消極財産を引いて残った金額を半分に分ける、ということになります。
例えば、二人が結婚してから住宅ローンを組んで家を購入しましたが、名義は夫一人なので借金も夫だけが負っているとします。
ローンの残高は600万円で、住宅を売ったお金や預貯金・株など財産を合わせると1000万円になったとします。そのままプラスの財産だけを夫婦で2分の1にすれば、夫は現金500万円と借金600万円、妻は現金500万円だけを手にすることになり、それでは夫は結局借金しか残らないために不公平です。
夫婦で住むための住宅をローンで組んでいる場合には分与の対象ですから、まずはプラスの財産1000万円から借金の600万円を引き、残った400万円をふたりで200万円ずつ分けるという計算になります。
しかし、これが借金の額の方が多いとどうなるでしょうか。
先ほどの例でいえば、住宅を売ってもなお夫の住宅ローンが1500万円あり、プラスの財産が800万円だった場合です。このとき、夫が現金800万円全てを使って借金を返したとしても、まだ残債が700万円残った状態となります。それを夫婦で350万円ずつ負担するのかといえば、妻は負担する必要はありません。
これはつまり、夫は最初から赤字であるために分け合う財産はないと考えられ、財産分与はなしという結果になるからです。
妻はプラスの財産(積極財産)は受け取れないが、マイナスの財産(消極財産)も受け取らなくてよい、ということですね。借金そのものは、財産分与の対象とはならないのです。
これが公平かどうかは疑問の余地がありますが、裁判所の考え方は原則このようになっていますので、離婚が泥沼になって審判や判決までもつれこんでしまえば分与は認められない可能性が高くなる、ということです。
ただし、実際の離婚協議や調停では妻はある程度の金額を求める場合が多いですし、夫がそれに応えることも多くなっています。
夫婦間の合意とは?
離婚においても様々なトラブルが発生し、体力気力共にひどく消耗する方がたくさんいますが、それは夫婦間で合意とならないことが多い場合です。
財産分与は話し合いをし、二人がそれでいいよと合意することで進んでいきます。ですのでローンなどの借金は財産分与の対象にならないというのは、あくまでも協議がうまくいかない場合の話です。
つまり、夫婦が合意さえすれば、借金であっても財産分与の対象にすることは出来るのです。
例えば住宅ローンは夫が一人で組んでいたけれど、妻の方も十分年収が高く、離婚理由も性格の不一致などでどちらが有責というわけでもなくさほど揉めなかった場合、妻が借金を半分支払うことに合意すれば負担してもらうことは出来ます。
住宅ローン問題は専門家の助けを借りる
夫婦の離婚で最も揉めやすいのが、やはり住宅ローンの問題です。通常住宅ローンは30年以上かかることが多いので、離婚時にはまだ完済していないケースが一般的です。その時、どちらも家を出て売却し、その代金でローンを完済できれば問題はそこで終わります。
しかし、売った金額よりもローンの方が高かった場合、面倒くさいことになってしまいます。オーバーローンであれば不動産の価値はゼロですし、借金そのものは上記のように財産分与の対象とはなりません。
更に離婚したあと、一方がその家に住み続けようとすれば、問題は大きくなります。夫が単独で名義人となっている場合、そのまま住みたい妻へ名義変更することが困難なことが多いですし、妻が勝手に住み続けていたら夫が売却してしまった、というケースもあります。
共働き夫婦だった場合には双方が住宅ローンの連帯債務者であることも多く、離婚をしても連帯債務者から外れることができない可能性もあるのです。
そうなれば、もし家に住んでいる方がローンの支払いを滞らせてしまったら、出ていった方に支払い請求がきてしまいます。
離婚をした時にローンつきの不動産をどうするかについては、正解はないのが結論です。こじれると更に長引くことになってしまいますので、このような場合には弁護士などの専門家を入れ、アドバイスを受けたり力になってもらいましょう。
後々もっと大きなトラブルにならないように、最初からきっちりと対処しておくことが大切です。そして具体的に詳細が決まってきたら、口約束ではなく公正証書を作っておきましょう。後で問題が起きたとき、必ず役にたってくれます。