現在の収入が減ってしまうことは、珍しいことではありません。
会社の業績不振、働き方改革による残業減少などが理由の収入減少は、誰に起こっても不思議ではない状況です。
また介護離職やリストラなどによる無職の環境に陥ってしまう可能性もあります。
ここでは収入減少に伴い、住宅ローンの支払いが難しくなってしまった私の経験に基づいて、どのように対処したのか・任意売却とはどのようなものなのかについて説明します。
住宅ローンの支払いと初めて知った任意売却
住宅ローンの契約者には長期に渡って支払いが生じます。
他のローンよりも低金利で借りられますが、借入金額が大きいため支払額も大きくなるので、団体信用生命保険や抵当権の設定など、住宅ローンの支払いが滞った時の対応策は取られています。
返済が滞ってしまうと、契約者を含めた家族には環境の変化が起こってしまいます。
もちろんきっちり完済できれば問題はりませんが、そうでない場合にはどのような解決策があるのか、そして環境の変化をなるべく伴わない方法で解決できることが最善の方法だと考えるものです。
住宅ローンと任意売却
私は、54歳の会社員で妻と14歳と10歳の子供2人の4人家族です。
40歳の時に、金融機関の住宅ローンを25年の固定金利で借りました。
しかし、51歳の時に会社のリストラにより無職となってしまい、再就職もなかなか見つからずに、無収入となってしまいます。
その後なんとか再就職先は決まりましたが、収入はかなり下がってしまい、このままでは住宅ローンの完済は無理だろうと思いました。
家を売却して完済することも考えましたが、家族のことを考えると環境の変化は避けたいですし、おそらく売却しても住宅ローンは残ってしまう状況。
どうしたらいいのかわからず、悩んでいるときに司法書士さんの無料相談を知り、何か解決策が見つかるかもという想いで相談をしました。
その相談で、提案をされたのが任意売却です。
任意売却とは
住宅ローンの支払いが滞ると、住宅が差し押さえられて競売にかけられてしまい、強制的に家を売られてしまうということがあります。
これは、債務者である金融機関が残った住宅ローン債権を回収しようとするためです。
裁判所を通じて行うので、強制的に競売にかけられます。
そんな競売ではなく任意売却は、不動産コンサルタントが債務者と債権者の仲介者となり、債権者の合意のもと不動産を売却するという仕組みです。
競売のような入札制ではなく、通常の不動産売却と同じような順序で売却されます。
任意売却には必要な要件があります。
- 住宅ローンが滞納となっている
- 売却時に住宅ローンが完済できない
この2点が通常と異なるので、債権者の同意が必要となるのです。
任意売却についてメリットとデメリットを提示しながら説明します。
メリット
任意売却は、滞納者だけではなく、金融機関などにもメリットがある方法とも言えます。
- 競売よりも高値での売却が可能
- プライバシーが守られる
- 司法書士などに相談をしながらおこなうのでサポートしてくれる人がいる
- 滞納者の希望や要望が通りやすい(引っ越し時期・リースバック)
- 引っ越し代などの資金を得られる可能性がある
これらのメリットが競売よりも不確定要素が少なくスムーズに進めやすい傾向があります。
競売よりも高値
これは、競売が入札制(いわゆるオークション)であるのに対して、任意売却は不動産コンサルタントが売却相手を探し、相場に近い価格で売却することが可能だからです。
競売は、相場の6割程度を目安として入札を募るので、安くなりがちで落札されるまで売却価格がわかりません。
また、競売には時間がかかってしまうため、その間の遅延損害金や競売申し立て費用も必要となります。
プライバシー
競売となると、入札者の募集をするために裁判所で情報の公開がされます。
競売のための情報が公開されると、不動産業者などが自宅に押し寄せるようなこともあり、プライバシーの侵害による必要以上の不安やストレスが生じてしまいます。
司法書士など専門家が味方
司法書士などの専門家に相談するところから手続きが始まるので、わからないことや不安なことは相談が可能です。家族以外には、相談しにくい内容であるので味方いてくれるだけですごく心強いものです。
希望や要望が相談できる
通常の売却と同じなので、引っ越し時期などを買主と相談することが可能です。
競売では、落札後にすぐの退去が求められ、もちろん断ることはできません。
なるべく家族の負担とならないような形で売却ができることは、任意売却の大きなメリットです。
手許資金が得られることも
すべてではありませんが、交渉次第では引っ越し費用などの資金が認めてもらえる可能性もあります。
このようなメリットがあります。
競売よりも通常の売却手順に近いということが安心できるポイントです。
デメリット
メリットが多い任意売却、しかし完ぺきな方法というものではなくデメリットもあります。
- 新規のローンが一定期間利用できない
- 任意売却できない場合もある
新規のローンの利用制限
任意売却を利用するための要件に、住宅ローンの支払いが滞っている必要があるため、ローンが事故債権化していることとなってしまいます。
金融機関同士が共有する信用情報に延滞記録が残るために5年から7年程度の新たなローンを組むことが難しくなってしまうのです。
ただ既に保有しているクレジットカードは使用可能な場合がほとんどですし、自己破産や個人再生などの債務整理などをしていなければある一定期間経過後には更新できている場合が多くあります。
任意売却できない
任意売却できなければ競売ということになります。
任意売却できない原因例
- 債務者、所有者、債権者の協力が得られない
- 他の差し押さえがある
- 不動産が売却しづらい状況
- 不動産に大きな欠陥や管理状態がある
このような場合には任意売却が難しくなり、競売となってしまいます。
任意売却には、デメリットもありますが競売よりもメリットが多く、現在の状況をより悪くしなくて済むようなポイントがあります。
住宅ローンの支払いが難しい場合には、ぜひ任意売却の検討をしてみてください。
任意売却のながれ
私は収入の低下から住宅ローンの支払いが難しくなり、任意売却をすることになりました。
任意売却をすることで悪循環を断つには、どのような時期にどのようなことをすればよいのかなど、わかりにくいことが多くあります。わからないことを少しでも減らすことができると不安が減らせます。一連の流れを説明しておきます。
私が経験した任意売却
- 返済方法変更の相談
- 通常売却の検討
- 住宅ローンの滞納発生
- 司法書士への相談
- 金融機関への任意売却の打診
- 債権者との調整と合意
- 販売開始
- 買主決定
- 契約締結
これが任意売却に至るまでの大きな流れです。
1~4までは、以下を含めて自分自身で行いました。
- 金融機関へ返済額変更の相談
- 売却をして住宅ローンの返済ができないかと不動産業者に査定依頼
5以降は、司法書士さんにお任せしながら進めていくことができました。
司法書士さんを不動産屋さんだと仮定すれば、通常の売却と同じ感覚です。
必要書類を提出したり、売却についての相談をしたりしますよね。
相談したことで、とてもスムーズに問題解決に向けて進みました。
任意売却について司法書士さんから言われた注意点は、時間的な制約があることです。
任意売却を申し出るには期限がある
滞納から数か月経過すると、期限の利益の喪失という書面が届きます。
これは分割返済の権利が失われたことを意味しています。
期限の利益の喪失が届くと、以下のような流れになります。
- 一括返済をしなくてはならなくなる
- 一括返済ができないと、競売になる
任意売却は、この期限の利益の喪失という書面が届いてから競売の申し立てまでの間に行う必要があるということになります。
販売開始された不動産の買主決定までの期間
買主が見つかるまで、半永久的に待ってくれるのではないので買主が見つからなければ、競売へと手続きが進みます。
任意売却を成立させるためにはこのような時間的な制約もクリアしなければなりません。
任意売却をして気付いたこと
これらが経験して気付いたポイントとなっています。
タイミングがあること
任意売却には、要件やさまざまな条件をクリアしなければなりませんが、時間的な要素が大きいということも言えます。
任意売却のポイントともいえる、任意売却の申し出と不動産の売却にタイミングの要素が大きく絡むことがポイントです。
とりあえず専門家に相談
周囲には言いにくいことなので、ギリギリまで何とかしようとしてしまいがち、でもとりあえず司法書士さんなどの専門家に相談してみることをおすすめします。
どのように対処したらいいのかアドバイスを受けるだけでも、気持ちの落ち着き方が違います。
悪い状況を最低限に抑えて悪循環に陥らないこと
これに一番気付かされました。
支払いができない、滞納している、これだけで既にかなりの悪循環に陥っているはずです。
ここで粘ってしまってより状況を悪くすることは避けなければなりません。
一度立ち止まって、状況を確認してみましょう。
任意売却と競売
競売は、任意売却とともに住宅ローンが払えなくなってしまった場合の残務整理の一つの方法となります。
しかし、この二つは残務整理の方法ということもあり、似ているようですが仕組みが異なります。できることであれば、誰もが任意売却を行いたいと思うはず。
ではどうして、競売は避けたい方法となるのでしょうか。
競売とは
競売は、住宅ローンの契約者が支払いを滞ってしまった場合に、金融機関などが裁判所の権限で強制的に売却して得た代金を残りのローンの支払いにとして回収するために行う方法です。
競売は滞納後すぐに行われるのではなく、滞納後数か月から半年程度経過すると、手続きが始められてしまいます。
それまでの間に、任意売却などの手続きを始めれば、競売は回避可能です。
具体的には、滞納が始まってから、期限の利益の喪失という書面が届くまでに、司法書士などの専門家へ相談をして、返済や今後の対応を考えましょう。
私の場合は、5ヶ月後に期限の利益の喪失という書面が送付されてきましたが、すでに司法書士さんに相談をしており、この書面到着をもって任意売却に向けた手続きを始めるという予定をしていました。
しかし、専門家とのアドバイスをしていなければこのような書面が届くだけでもすごく不安になってしまいます。競売にならないためにも専門家への相談がおすすめです。
任意売却と競売の異なる点
強制的に売却するということが競売の大きな特徴です。
強制的ということで、売却方法や売却価格の点で大きく異なるのが、任意売却と競売。
どのように違いがあるのか説明します。
任意売却と競売の比較
・売却方法
任意売却 | 通常の不動産売却とほぼ同じで、退去時期など買主と相談も可能 |
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競売 | 公募されたのちに入札方式で行われる。裁判所の権限で行われるので強制的に売却され、退去時期なども拒否できない |
・売却価格
任意売却 | 通常の売却と同様なので、相場で売却されることで売却金額の見込みがわかりやすく、売却後の返済計画が立てやすい |
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競売 | 公募での入札形式なので、相場の7割から5割程度となることが多く。売却しても債務が多く残る |
任意売却と比べた競売のデメリット
任意売却と競売で大きく異なる売却方法。
その売却の違いによって生じる可能性があるデメリットを紹介します。
- 公募の入札制なので、売却価格の予定が立たないので、売却後の生活などの計画が立てにくい。
- 通常の不動産売却の7割以下の金額での売却が多く、売却後にも債務が残ってしまう。
- 公募の入札制ということから多くの人に、競売されていることが知られてしまう。場合によっては不動産業者などが近隣に聞き込みを行うこともあり、金銭的状況を知られてしまう可能性がある。
売却価格の予定が立たない、近隣へプライバシーが知られてしまう、こういったことを考えると、競売はできるだけ避けたいものです。
任意売却であれば、通常売却と変わらないことや金銭的状況を知られないことから、同一地域内への引っ越しも可能となるので、家族の環境変化も最低限に抑えられ、最善の結果を得られたと思っています。
自己破産
自己破産という言葉は、ほとんどの人が聞いたことがあると思いますが、詳しくは知らないという人が多いようです。
借金がなくなる代わりに最低限の生活ができる程度になってしまうという程度の知識ではないでしょうか。
これも住宅ローン支払いが困難になった場合の手段のひとつですが、デメリットが大きすぎるのであくまで最終手段という位置付けです。
自己破産とは
具体的には、裁判所に申し立てをすることで手続きなどが始まり、裁判所権限で20万円以上の現金や資産を売却して返済に充てられます。もちろん家や車も換金可能なものはすべて没収されるイメージです。
ただ連帯保証人がいる場合で、没収された資産で弁済しきれない場合は、連帯保証人に一括返済が求められます。もし支払えない場合は、連帯保証人も自己破産の手続きが必要となってしまいます。
このように周りにもさまざまな影響を及ぼす可能性がある自己破産は、最終手段であるという認識が必要です。
任意売却と自己破産の異なる点
自己破産が最終手段であり、任意売却が第一選択となるのは、売却されて弁済に充てられる対象が異なることが理由です。
任意売却が家だけを売却するのに対して、自己破産は20万円以上の資産すべてという点にあります。もちろん金銭的にも大きな差がありますが、生活環境に大きな差が生じてしまいます。
私の場合、任意売却を選択したおかげで、その後の生活環境の変化を最低限に抑えられたことにとても満足しています。
任意売却と比べた自己破産のデメリット
任意売却と自己破産は住宅ローンの支払いが滞ってしまい、返済が困難になった時の手段ですが、多くのケースで自己破産を選択すると不利益が生じてしまいます。
ただでさえ住宅ローンの支払いが困難な状況に陥っている状況で、これ以上の不利益があっては悪循環からの脱出が難しくなりかねないです。
自己破産のデメリット
- 20万円以上の資産は弁済に充てられ、必要最低限の財産のみとなってしまう。
- 自己破産の手続きが終了するまでの期間は、弁護士や宅地建物取引業者、証券会社外交員や後見人などの職業に就くことができない。
- 手続き後6年程度は、事故情報いわゆるブラックリストに載ってしまい、新たな借り入れができなくなる。
- 住所や氏名が官報に記載されるので、自己破産したことが知られてしまう可能性がある。
- 連帯保証人が残債を一括返済できない場合には、連帯保証人も自己破産を選択しなければならない可能性があり、周囲への影響を与えてしまうことにもなる。
自己破産は、このようなデメリットはありますが、メリットはほとんどないという方法です。どうしても他の選択肢は困難な状況でない限りおすすめはではありません。
任意売却・競売・自己破産
これまで説明してきたように、住宅ローンの支払いが滞り今後も支払いが難しい状況となった時に選択する手段は、大きく分けると以下の3つです。
- 任意売却
- 競売
- 自己破産
第一選択は任意売却、最終手段が自己破産とお伝えしてきましたが、ここではその流れを説明しておきます。
選択すべき状況
自己破産を選択することは必然ではありません。
住宅ローンの債務を返済するにあたり、選択可能な手段から自分に適しているものを選ぶことが重要です。
選択可能な条件に当てはまるか、メリット・デメリットを知り検討する、このようなことを手段ひとつひとつにおいてフローチャートのような考え方で進めていきます。
その中で、より悪循環からの脱却をしやすい手段を見つけることが必要です。
これまでの人生の努力が奪われかねない自己破産はなるべく避けたい、しかし返済が困難な状況に陥った責任は負わなければなりません。だからこそこれ以上の状況悪化を防げるような手段を選択したいものであります。
司法書士などの専門家へ相談を
住宅ローンの支払いが滞ってしまうこと、リストラや会社の業績により無職や収入低下などは、多くの住宅ローン契約者に起こりうる可能性のあることです。
このような場合、自分が何かした結果支払えなかったというわけではないので、収入を得るための努力はしても、滞納してしまうことへのアクションは遅れがちになります。
実際、私も経験したのでわかりますが、翌月までには何とかなるという思いがあり、その繰り返しが数か月に及び状況がより悪化してしまうということになるのです。
私自身の場合は、無職になってしまい時間的な余裕があったため、金融機関へ相談したりしている流れで、結果的に司法書士さんへ相談することが早期にできました。
相談できたことで、できることできないことが判明し、その時点よりも悪い状況に陥ることなく解決できたことには満足しています。
住宅ローンの支払いが困難になり任意売却の手続きを行った経験から言えること。
- 住宅ローンの支払いが難しくなることは誰にでも起こりうることだと認識すること。
- 住宅ローンに関しては、家族と共有しておくこと。
- 支払いが滞ってしまった場合、収入を確保する努力をするとともに金融機関へ相談すること。
- 状況に変化がなく滞納が続いてしまう場合は、司法書士などの専門家に相談が必要。
- その時点よりも状況が悪くならないことが、その時点での目標だと認識すること。決して元通りになることを目標としてはいけません。
以上の5点は、経験から私が学んだことです。
住宅ローンの支払いは、長期間です。滞納が数か月であれば十数万円ですが、一度支払えなくなると滞納額はあっという間に数十万円となり努力ではどうにもならない額になってしまいます。司法書士などの専門家へ相談すれば、満足のいく解決方法を見つけてくれます。