普段あまり病院にかかる事はないとは言っても、年間を通して見てみると、実は「医療費」というのは結構発生していたりするものです。 そんな医療費による負担を軽減する為に存在する税制優遇策が「医療費控除」です。
比較的、知名度は高い所得控除のうちの一つなのですが、年末調整では処理できない控除である事から、利用していないというサラリーマンの方は多いです。
事実、確定申告は面倒というイメージは強いですが、人によっては医療費控除による税金の節約効果は高めですし、手続きは意外と簡単です。
そこで今回は、税金の節約対策が少ないサラリーマンにこそ知って欲しい「医療費控除」について解説します。
医療費控除について詳しく
サラリーマンであれば「所得控除」という言葉に聞き覚えがある方も多いと思います。
簡単に説明すると、サラリーマンの「収入」のうち「この分の金額は税金を課さないよ」な部分が所得控除です。
そして、今回解説する医療費控除は、この所得控除のうちの一つです。
この医療費控除を活用できれば、普段サラリーマンの収入から所得控除される額に、医療費控除分の額が上乗せされ、翌年の住民税減額、または所得税から還付を受ける事ができます。
結果として税金の節約に繋げる事ができることになります。
どんな医療費が控除の対象になるのか
医療費控除は、納税者(自分)自身、または家族、その他の親族に対し、その年(1月1日~12月31日)に支払った医療費の合計が控除の対象となります。
以上の事から、子供や妻、従兄妹、祖父母の為に支払った医療費も対象です。
その為、家族が多いサラリーマンは比較的、医療費控除による税金の節約効果が高いです。
では、何が「医療費」として認められるのか、それは以下の通りです。
医師・歯科医師への診断費または治療費
主に病気や怪我といった何等かの症状を治療する目的を前提として支払った診断・治療費は医療費控除の対象となります。
その為、治療が目的ではない健康診断や人間ドックなどの費用は控除の対象外です。
但し、検査において疾患が明らかになったケースでは、検査費用も含め医療費控除の対象です。
他、歯科疾患の治療を目的とした場合であれば、虫歯治療以外にもクラウン(差し歯・かぶせもの)やインプラント等が医療費控除の対象となります。
なお、美容整形を目的とした歯の治療は対象外ですが、子供の歯並びを良くする為の矯正費用は控除対象になります。
医療費控除の対象となるもの | ・症状を治療する目的を前提として支払った診断・治療 ・虫歯治療 ・治療目的のクラウン(差し歯・かぶせもの)やインプラント等 ・子供の歯並びを良くする為の矯正 |
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医療費控除の対象とならないもの |
・健康診断や人間ドック |
医薬品、または医療器具などの購入費
処方箋は勿論の事、医師からの指示があれば予防、疲労回復、健康食品なども医療費控除の対象となります。
また、治療を受けるにあたって必要な松葉杖や車椅子、義手、義足などの医療器具も医療費控除の対象です。
通院に必要な交通費
病院への通院が必要となった場合、その通院の為に必要な交通費が医療費控除の対象となります。
付添人が必要な場合は、その付添人の交通費も対象です。
ただし、自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車料金は対象外です。また、タクシーの場合も緊急性や交通機関が未発達な地域、何等かの原因でバス、電車に乗れないといった相当な理由がなければ医療費控除の対象外になります。
あん摩マッサージ師やはり師への施術費
腰痛や肩こり、四十肩といった運動機能に支障をきたす疾患を治療する目的であれば、あん摩マッサージ師やはり師、きゆう師による施術の費用も医療費控除の対象となります。
但し、疲労回避を目的として施術を受けた場合、その施術費は控除の対象外です。
その他
以上で挙げたもの以外にも、介護保険の対象となる介護費用、妊娠や出産に関わる医師や看護師からの検診や指導、分娩介助の費用、また妊娠中絶、不妊治療に関わる費用も医療費の対象になります。
基本的には治療を目的とした検診・治療費、また治療を受けるにあたって間接的に発生する費用が医療費控除の対象となりますが、うち例外もいくつか存在していますので、医療費控除の対象となるものは実は広範囲にわたります。
医療費控除を受ける為の条件
医療費控除は、実際に納税者本人が支払った年間の合計額が対象となりますが、全額控除対象になる訳ではないので注意が必要です。
実際に控除の対象となるのは、年間で支払った医療費のうち、10万円を超えた部分、総所得が200万円以下の場合は総所得金額の5%を超えた部分が控除の対象となります。
総所得金額とは、扶養控除や配偶者控除といった「この分の金額は税金を課さないよ」な部分である所得控除を年収から引いた額の合計の事です。
また、医療費控除の上限金額は200万円までです。
治療目的の為に高額医療を受けた場合であっても、200万円を超えた分の医療費を控除の対象とする事はできません。
控除の対象 | ・年間で支払った医療費のうち、10万円を超えた部分 ・総所得が200万円以下の場合は総所得金額の5%を超えた部分 |
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控除の上限金額 | 200万円まで |
医療費控除でどれだけ税金の節約ができる?
例として、独身で年収300万円のサラリーマンが医療費を1年で20万円支払った場合、医療費控除でどれだけ税金が節約できるかをシミュレーションしてみます。
医療費控除を受けなかった場合の税額
まず、給与所得控除。
これは「サラリーマンにとって必要経費な分だから税金は課さないよ」な分の額であり、無条件で控除が適用されます。
年収300万円であれば「300万円×30%+18万円」で、108万円が控除されます。
※計算式は国税庁の早見表を参照
次に所得控除。
今回は「独身のサラリーマン」ですので、基礎控除と社会保険料控除のみを適用させます。基礎控除は「納税負担を軽くする為に、無条件で一定額は税金を課さないよ」な分で、所得税だと38万円、住民税だと33万円が適用されます。
社会保険料控除はその名の通り、「社会保険で払ったお金は税金を課さないよ」な分です。
今回は年間44万円の社会保険料を支払っていると仮定します。
これで所得税の所得控除の額が「108万円(給与所得控除)+82万円(所得控除)」で190万円。住民税の所得控除は基礎控除が33万円なので、185万円。
これを年収から引くと、課税対象(所得)は所得税が「110万円(収入-所得控除)」、住民税が「115万円」になる事が分かります。
次に、算出した所得額に税率をかけて、実際にいくら払うかを計算します。
まず、所得税の場合は所得の額に対して税率は変わります。
今回のケースだと、所得税が適用される所得が110万円ですので「110万円×5%」で55,000円。
※所得の額に応じて、どれだけの所得税率が適用されるかは、国税庁の早見表を参照
住民税は適用される所得が115万円ですので
「115万円×10%」で115,000円。(住民税率は一律10%です)
以上の事から、このサラリーマンが年間で支払う従来の税金は17万円である事が分かります。
医療費控除を受けた場合の税額
次は、20万円分の医療費控除を受けた場合の税金を計算してみます。
先述しましたが、医療費控除は「10万円、総所得が200万円以下の場合は総所得金額の5%を超えた部分」が適用されます。今回の例だと、サラリーマンの所得税、住民税の計算が適用される所得は共に200万円以下ですので
- 所得税には「20万円-(190万円×5%)」で105,000円
- 住民税には「20万円-(185万円×5%)」で107,500円
が医療費控除に適用されます。これを所得に加算して税金を算出すると
- 所得税は「(110万円(従来の所得)-105,000円)×5%」で49,750円
- 住民税は「(115万円(従来の所得)-107,500円)×10%」で104,250円
以上の事から、医療費控除を受けたサラリーマンが年間で支払う税金は154,000円である事が分かります。
20万円の医療費を控除しなかった場合とした場合で比較してみると、その税金の節約額は「16,000円」です。
医療費控除を申告する方法
医療費控除を申告する方法について医療費控除を申告する為には「医療費控除に関する明細書」を国税庁の公式サイトからダウンロードし、作成する必要があります。
ただ、作成自体は決して難しいものではありません。
「医療を受けた方の氏名」「医療費を支払った病院や薬局の名称」「支払った額」が分かっていれば、基本的に作成に困る事はないでしょう。ちなみに、通院などで支払った交通費も、医療費に上乗せする形で記載して構いません。
また、2018年1月からは領収書が不要となりましたので、医療費控除の確定申告に添付する書類は、医療費控除に関する明細書で完結します。
確定申告をする方法
次に確定申告です。
確定申告をする機会がほとんどないサラリーマンの方からすると、確定申告は難しいと思われがちですが、基本的には源泉徴収票を丸写しするだけです。医療費控除を申告する場合は、この丸写し作業に加え、申告書Aにある「所得から差し引かれる金額」の18項目、「医療費控除」に、医療費控除額を記載して下さい。
記載額は「1年間で支払った医療費-10万円」、総所得が200万円以下の方は「1年間でしはらった医療費-(総所得×0.5%)」で算出した額を記載して下さい。
まとめ医療費控除は、サラリーマンでもできる税金節約術の中でも、比較的簡単な部類にはいる節約術です。
自身、または家族、その他親族の治療を目的として支払った費用であれば、基本的には「医療費」として認められ、更には通院の為の交通費、薬代なども対象となるため、範囲は広く、税金の節約効果としては高めです。
10万円(総所得200万円以下の場合は、総所得×5%)以上、200万円以下の部分が医療費控除の適用となる為、払った医療費の全額が控除されるという訳ではありませんが、年間を通して見れば負担となりやすい医療費は、負担を軽減するという意味でも積極的に利用するのがよいでしょう。